最初は、ただの紙きれのように見えた。
けれど手に取ると、不思議と心がざわめいた。

何度も会っているのに、伝えきれない想いがある。
笑顔の奥に、ふとこぼれる寂しさや、
「また会いたい」と思う瞬間の切なさを、
言葉にしようとするたび、喉の奥で消えてしまう。

だから、その小さな札に、想いを託した。
ただ「いま、この気持ちを届けたい」という衝動のままに。

受け取った彼女は、一瞬だけ目を丸くして、
それから、いつものように笑った。

「ありがとう」と言う声が、やわらかく響いた。
その一言が、胸の奥をゆっくりとあたためていく。

たった一枚の札なのに、
何かが確かに動いたような気がした。

部屋を出るころには、
少しだけ背筋が伸びていた。
言葉にできなかった気持ちを、
ようやく誰かに預けられたような安心感。

——“推し札”とは、きっとそういうものだ。
心がそっと触れ合う、ほんの一瞬の奇跡。